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      * * * 番外編「男と女の古事記伝」第10回 * * *
             2003.12.25

 メリー・クリスマス!
 皆さん、この聖なる日をどんな風に過ごされてますか?

 2003年もあっという間に残すところわずかとなってしまいましたね。
 このメールマガジン「恋歌」も今年最後の配信となりました。

 皆さんにとって今年はどんな年だったでしょうか、
 そして新しい年はどんな一年になるでしょうか。

 皆さんの幸せを祈りつつ
 番外編「男と女の古事記伝」第10回、
 聖なる夜に相応しく「天とひとつ」というテーマで送らせて戴きます。

 どうぞご賞味下さい――
 そしてよいお年をお迎え下さい。。。


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    第10回 天とひとつ


 今回は神功(じんぐう)皇后という、実にすごい女性の登場です。僕は、神功皇后の
 物語は、日本の男女のあり方の典型を示しているように思うのです。

 前回ご紹介したヤマトタケルは景行天皇の皇子でしたが、景行天皇の跡を継いだのは
 ヤマトタケルの腹違いの兄弟であるワカタラシヒコノミコトでした。ワカタラシヒコ
 は成務天皇となり、更にその跡を継いだのがヤマトタケルの6人の皇子の一人、タラ
 シナカツヒコノミコト、仲哀天皇です。その仲哀天皇が娶ったのがオキナガタラシヒ
 メ、後に神功皇后と呼ばれる女性です。そして、『古事記』の仲哀天皇の物語は殆ど
 神功皇后の物語と言っていい程なのです。

 仲哀天皇はある時、クマソの討伐に向かいます。そして今の福岡県の香椎にて神のご
 宣託を請うのです。この時、神を呼ぶ巫女となったのが神功皇后であり、建内宿禰
 (たけうちのすくね)という大臣が沙庭(さにわ)に控え、天皇が琴を弾いて神を呼
 んだのです。

 ここで沙庭という言葉が出てきましたが、これはもともと、神に来てもらうために特
 別に浄められた場所のことを言います。そして、そこで神の宣託を請う人のことも審
 神者(サニワ)と言ったのです。そして、その審神者の請願を受けて神を呼び、神懸
 かるのが巫女と呼ばれる女性でした。巫女は神懸かると神の言葉を話します。それは
 或いは理解不可能なものなのですが、それを解き、現実の政治として実行するのが審
 神者であったわけです。

 ここで思い出すのが『魏志倭人伝』に記されたヒミコのことですね。ヒミコは不思議
 な力を使う女王として君臨し、神の言葉がわかるものなのですが、実際にそれを現実
 の政治で執行していったのはその弟と言われています。古代の日本での理想的なカッ
 プルとは正に、巫女−審神者、姉−弟の関係であったようなのです。姉と弟というの
 は、実際に血のつながった姉弟では結婚できませんが、それは実際の家族のように慕
 い合いながら、女性がリードし、男性が助ける、という関係であったろうと思います。

 男にとって、女性というのはやはり不思議な存在です。感情はくるくる変わるし、喋っ
 ている言葉は男からしてみれば全く論理性を欠いているようなどこがどうつながって
 るかわけのわからない話をしますし、その話も飛躍しますし、従ってその行動も予測
 不可能。ではメチャクチャ喋ってるのかと思うと、実は鋭く真理を言い当てていたり
 します。しかしよく考えてみると、同じように予測不可能でありながら、私たちに現
 実を突き付けてくるのが自然です。そこで、日本に於いては女性は自然のこと、宇宙
 のこと、当時の言葉で言えば、天、神のことがわかる存在と捉えられていたわけです。
 女性の非論理的な側面、ただ感情に従って人が変わったようになってしまう側面ばか
 りを見ると、バカだとか気が狂ってるとか、女性を見下げることになってしまうでしょ
 う。しかし、そもそも生命を生み出すという男にはできない奇跡を起すのは女性であ
 り、女性のそうした理解不可能、かつ奇跡を起す側面を、同じく理解不可能で奇跡を
 起すことのできる神からのものだとすれば、女性は神、天とつながる存在として敬わ
 れることになるわけです。

 岩月謙司さんは、一連の著作、例えば『なぜ、男は「女はバカ」と思ってしまうのか』
 の中で、所謂「女性のカン」は全く論理性を欠いているように見えても、殆ど当る、
 と書いています。このことは僕も周りにいる女性たちから感じています。たとえバカ
 じゃん、と思えるようなことを言っていても、結果的にはその女性が言っている方向
 へとなっていくのです。しかし、岩月さんは同時に、その真実とは、その女性にとっ
 ての真実、であることもあり、たとえ当っていたとしても、それによって人を説得、
 納得させるのは難しいとも書いています。そのままでは女性はフラストレーションに
 陥ってしまうのです。そこでその女性のことを全て受け容れ、現実の社会の中でその
 ことを実現していくのが男なのです。古代日本の審神者はそのような存在でした。巫
 女−審神者という関係は、古代日本の政治や宗教という枠を越えて、より普遍的な男
 女関係なのであろうと思われます。

 何故でしょう。それは、結局私たち人間はこの地球から、宇宙から生まれた存在であ
 るからです。自然や宇宙、古(いにしえ)の人々が天と呼んだものがどこへ向かおう
 としているのか、何を私たちに要求しているのか、それがわからなければ、それに反
 してしまえば、ひとりひとりの個人にとっても、国家にとっても、滅びるしかないの
 です。

 解剖学の三木成夫さんの『内蔵のはたらきと子どものこころ』や『海・呼吸・古代形
 象』を読むと驚くべき事実が書いてあります。それは、人間の内蔵は宇宙と交流して
 いる、ということです。内蔵は遠い宇宙のことがわかるものなのだそうです。一方、
 外壁系と言われる皮膚や脳を含めた神経系は、目の前の情報しかキャッチできないも
 のらしいのです。従って、大脳皮質を発達させた人間は、どんどん目の前のことしか
 わからなくなっていったのですが、実はその大脳のはたらきにも男女の性差があり、
 結果として女性の方が宇宙のことをよりわかる存在なのだそうです。こうしてみると、
 解剖学という観点から見ても、女性は大きな宇宙、天の動きがわかり、男性は目の前
 の現実がわかり、やはり男と女とそれぞれの素質、能力を合わせてはじめて生きてい
 くことができる、ということなのではないでしょうか。

 話が長くなってしまいましたが、ともかくも、神功皇后はそのような天のことがわか
 る巫女であったわけです。そこで神が降りて来てこう言います。「西の方に国がある。
 金銀をはじめとして、様々な目を輝かす宝がたくさんその国にはある。今、その国を
 従えさせてあげよう。」この言葉を受けて天皇は高い所に登って西の方を見てみるの
 ですが、何も見えません。「ただ大きな海が広がるばかり、国などないではないか。
 ウソつきな神様だな。」そう言って、琴を弾くのをやめてしまします。ここに神様は
 大いに怒ってこう言います。「そもそもこの国はお前が支配するような国ではない。
 お前など行くべき所にとっとと行くがいい。」神の言葉がわかる審神者の建内宿禰は
 神を畏れて天皇に言います。「わが大君よ、何と恐れ多いことをおっしゃいます。さ
 さ、今一度琴を弾かれますよう。」天皇はしぶしぶ琴を手に取って弾き始めるのです
 が、すぐに琴の音が聞こえなくなってしまいます。どうしたことかと火をかざして天
 皇の方を見ると、何と既にお亡くなりになっていたのでした。

 ここに一同、驚き、恐れをなします。目の前で、あっと言う間にその神様の力を見せ
 つけられたわけですから。国を挙げてあらゆる罪や穢れを浄める儀式を行い、それら
 が済むと再び建内宿禰を審神者として神のご宣託を請います。神様が降りて来て皇后
 におっしゃるには、「お前のお腹には御子が宿っている。この国は全てその子が支配
 するものである。」建内宿禰が聞きます。「そのお腹にいらっしゃる御子様は、男で
 しょうか、女でしょうか。」「男の子である。」「今こうして私共に教え諭して下さ
 る大神様、どうぞお名前を知りたく存じます。」「これはアマテラスオオミカミの御
 心である。本当に例の国を従えたいと思うのなら、天の神、土地の神、山の神、河の
 神、海の神、諸々の神に幣を奉り、わが御魂(みたま)を船に乗せて大海を渡るのだ
 。」

 神功皇后、神の命ずるままに軍勢を整え、自ら艦隊を率いて朝鮮半島へと向かいます。
 神の風が吹き、艦隊はすんなりと波のままに新羅へと着き、あっという間に新羅国内
 に攻め入ってしまいます。新羅の王は恐れをなして、「これより後は全て天皇の仰せ
 のままに、天皇の馬飼いとしてこの天地が続く限りお仕えします。」と服従してしま
 います。そして新羅だけでなく、百済をも直轄地として、朝鮮半島で収穫したものを
 ここに集積することとしたのです。

 ところが帰国前にお腹の御子が生まれそうになってしまいます。こんなところで出産
 するなど、敵に隙を与えるようなものと思ったのでしょうか。お腹の下に石を巻きつ
 けて御子が出て来ないように押さえをしてしまうのです! 何と剛胆な女の人なんで
 しょうね。こうして再び海を越え、九州に戻って来てから御子をご出産されるのです。
 その子こそオオトモワケノミコト、後の応神天皇です。

 さて、神功皇后は御子と共にヤマトへと帰ることになりますが、長い間国を空けてい
 たので、その間に人の心がどう変わっているかわかりません。試しに、お生まれになっ
 た御子はすぐに亡くなられたと言い触らして船に棺を乗せて行くと、仲哀天皇の別の
 御女(みめ)の御子、香坂王(カゴサカノオオキミ)と忍熊王(オシクマノオオキミ)
 はこれを機に謀反を起して政権を奪おうとします。が、やはり天に反する行為はうま
 くいきません。神のご宣託を得ようとして香坂王は猪に食べられてしまいます。それ
 をも恐れず神功皇后の艦隊を襲った忍熊王もまんまと作戦に引っ掛かり、琵琶湖まで
 追い詰められて自ら入水します。

 こうして神の言葉に従った神功皇后は新羅や百済を従え、国内の豪族達を従え、69年
 の長きにわたってこの国を治め、101歳まで生きたと言います。一方、神の言葉をな
 いがしろにした仲哀天皇、そして邪な考えで天に反する行為をした香坂王も忍熊王も
 みな滅んでいったのです。「天」という言葉を古臭いと感じたり、宗教的と感じるな
 らそれを自然と呼んでも宇宙と呼んでもいいでしょう。天の法、自然の法をわかり、
 それに従わずして私たちの生活も、政治も、経済もあり得ません。昨今、世界的な規
 模で国も個人も行き詰まりを見せているのは、私たちがそれのことをわからなり、全
 てを、自然や宇宙さえも人間がコントロールできると思って突き進んで来た結果では
 ないでしょうか。古代の人々のように天の意志をわかり、天とひとつ、自然とひとつ
 で生きることが何より求められていると思います。

 そしてそのことを実践する基礎となるのが、巫女−審神者に見られる幸せな男女のあ
 り方だと思うのです。天とひとつ、大宇宙を感じながら生きていく男と女、そんな風
 に生きることができれば、二人にとって人生どんなに豊かなものになることでしょう。


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 「恋歌」番外編は隔週木曜日に発行します。
 次回をどうぞお楽しみに。。。。


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 2003.12.25 「恋歌」番外編第10回発行号


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