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       * * * 番外編「男と女の古事記伝」第6回 * * *
              2003.10.30

 東京の都心でも紅葉が美しく舞う季節となりましたが、
皆様いかがお過ごしでいらっしゃいますか?

 「恋歌」では恋の表現を通して、私たちが忘れてしまった日本古来の男女のあり方
や日本人の魂を取り戻し、一人一人は勿論、日本全体も元気になればとの願いからこ
のメールマガジンを配信しています。

 さて、隔週でお届けしておりますタンゴ黒猫の『男と女の古事記伝』の第6回、特
別編成のため、1週遅れての配信です。楽しみにされている皆様には大変お待たせ致
しました。

 今回も前回に続き出雲が舞台です。大国主は自ら治める出雲を高天の原の神々に譲
ることになるのですが、そのためには何人もの男女が犠牲になっているようなのです。

 タンゴ黒猫自身、何度読んでもわからなかったというこの「国譲り」の物語を、そ
こに関わった男女の悲劇としてとらえていきます。

 どうぞご賞味下さい。。。


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   第6回 出雲騒動


10月のことを神無月(かんなづき)と言いますが、これは日本中の神様が出雲に集ま
るからで、日本の各地から神様がいなくなるからだそうです。逆に出雲では日本中の
神様が集まるわけですから神在月と呼ぶのだそうです。その神在月に出雲のことにつ
いて触れるのも、何だか不思議な気がします。(実際には旧暦ですから11月に当るの
でしょうが。)そう、今回も前回に引き続き出雲を舞台にした話です。

ところで前回、大国主神と呼ばれたオオナムチはスサノオの6代末と書きましたとこ
ろ、読者の方からオオナムチはスサノオの息子なのではないか、とのご指摘がありま
した。この連載では一応『古事記』の記述をベースに書いており、一般にもそう言わ
れているので6代末としました。が、正直なところ、私自身、実際は息子だったので
はないかと考えています。スサノオは地下の国の神様なので年齢は無視するとしても、
それにしても6代末のオオナムチが娘のスセリヒメやタギリヒメと結婚するのは、ちょ
っと無理がありすぎると思うのです。また、『出雲国風土記』を見ると、オオナムチ
が勿論一番よく登場するのですが、次いでスサノオ、オオナムチの母の父に当るカミ
ムスヒノカミ、そしてオオナムチとタギリヒメの間に生まれた息子アジスキタカヒコ
ネノミコトがよく出てきます。私はそこに出雲が最も栄えた4代の系譜を見るように
思います。

オオナムチを6代の末にしたのは、『古事記』の編集者が時間を調整したのではない
かと私は疑っています。他にも、『出雲国風土記』と読み合わせるといろんなことに
気づきます。例えば、スサノオはどうももともと出雲出身の神様で出雲では大変慕わ
れていたようです。大原郡佐世郷(させのさと)の条に、「須佐能袁命(すさのをの
みこと)、佐世(させ)の木の葉を頭刺(かざ)して、踊躍(をど)らしし時に」と
あって、荒ぶる神様のイメージとは異なる、木の葉の冠を被って踊る愉快なスサノオ
の一面が見てとれます。とすれば、『古事記』でアマテラスやツクヨミの弟とされた
のは、実は出雲を併合するための、「もとは一つだったんだから」という理屈を正当
化するためだったのではないでしょうか。

そう、今回はその出雲併合の話をします。前回は大国主神と呼ばれたオオナムチと彼
を廻る女性達の話をしましたが、『古事記』ではその後、スクナビコナノカミと組ん
で出雲の国造りをしていったことが書かれています。ここまではどう見てもオオナム
チは英雄なのです。ところがここで舞台は高天の原に移り、突然、『古事記』筆者の
トーンが変わります。オオナムチが出雲の国造りを進めている頃、高天の原ではアマ
テラスが「この日本は我が御子アメノオシホミミノミコトが治める国である」と宣言
します。そこで、アメノオシホミミノミコトが天(あめ)の浮橋に立って、「日本は
ひどく騒いでいるというではないですか」と言います。荒ぶる神がいる。それは、今
の新潟県から長野県のあたりまで、どんどん勢力を拡大しているオオナムチに他なり
ません。先程まで英雄として描かれていたオオナムチは、ここにおいて突然、世を騒
がす悪人のように扱われてしまうのです。

私は長いこと、この突然の変化と、オオナムチによる国譲りの話がどうにも理解でき
ませんでした。私のような単純な頭の子供には、「結局オオナムチっていい人なの?
悪い人なの?」ということになってしまうのです。その後、日本の古代史についての
本を読む中で次第にわかってきたことは、高天の原、後の大和政権となっていく勢力
からすれば、どうしても出雲を従える必要があった。が、今述べたような広い地域に
亘ってオオナムチの人望、人気は高かったのでしょう。従って、いきなり攻めていっ
ても勝ち目はなく、また勝ってオオナムチの御首を挙げたとしても、今度は人心がつ
いてくるかどうかかなり疑問です。そこで、できるだけ平和裡に、オオナムチが進ん
で国を譲った、という形をとらせることにしたのでしょう。しかし、事はそう簡単に
は進みませんでした。この国譲り作戦のために多くの男女が犠牲になることになるの
です。

高天の原では、オオナムチを説得して大人しく国を譲ってもらうための使いとして、
アマテラスの御子であり、アメノオシホミミノミコトの弟でもあるアメノホヒノミコ
トを遣わすことにします。

ところが――。「すなはち大國主の神に媚(こ)び附きて、三年(みとせ)に至るま
で復奏(かへりごとまを)さざりき。」暴君だと聞いて出雲に向ったアメノホヒノミ
コトはオオナムチに接するうちにすっかり魅せられてしまったのでしょうか。3年経っ
ても高天の原には何の連絡もアメノホヒノミコトからはもたらされないのです。「媚
び附きて」という表現の中に、裏切られた、という高天の原側の悔しい気持ちを見る
ようです。が、もしかすると、福岡県から新潟、長野まで広い範囲で活動していたオ
オナムチ、ちょっと意地悪な言い方をすると、181人も子供がいる程奥さんがあちこ
ちにいて精力的に動いていたオオナムチのことですから、ホヒノミコトもなかなかオ
オナムチを掴まえることができなかったのかもしれません。

何れにしても、高天の原としてはこのままでは済ますことはできません。次にアマツ
クニタマノカミの子、アメノワカヒコが選ばれ、出雲に遣わされることになります。
実はオオナムチは正妻のスセリヒメの他に、同じくスサノオの娘タギリヒメも妻とし
て、そのタギリヒメとの間にアジキスキタカヒコネノミコトとシタテルヒメという子
供をなしているのですが、高天の原から出雲に遣わされたアメノワカヒコはそのシタ
テルヒメを妻に迎えてしまいます。ということはつまりオオナムチの義理の息子にな
り、オオナムチの相続人となったわけですね。それはきっと幸せな生活だったのでしょ
うか。アメノワカヒコも高天の原に何の連絡も報告もしないまま、今度は8年の月日
が経ってしまいます。

一体どうなっているのか! アマテラスは苛立ちます。今度は一体誰を遣わせば、ア
メノワカヒコが何の連絡もしないまま出雲に留まっている理由がわかるというのか!
神々は相談して雉の神様であるナキメが選ばれます。ナキメはその名の通り女ですね。
二度男を遣わして頼りにならないので女が選ばれたのでしょうか。アマテラスは諭し
て言うよう、「お前は出雲に行って、アメノワカヒコにこう聞きなさい。『あなたを
豊かな瑞穂の実る国に遣わしたのは、この国で暴れ回っている神たちを説得しておと
なしく服従してもらうためです。一体どうして8年もの間報告しないでいるのですか
。』と。」

さて、ナキメは雉ですから空を飛んでワカヒコのもとに舞い降りてきます。そしてア
マテラスから言われた通りのことを言うのですが、ここにアメノサグメという、占い
師のような人物が登場します。「この鳥は不吉なことを言っています。すぐに射殺し
た方がいいでしょう。」ワカヒコは高天の原から賜った弓矢でナキメを射殺してしま
いますが、その矢はナキメの体を貫通し、天(あめ)の安の河原にアマテラスとタカ
ギノカミがいらっしゃる足下に飛んで来るのです。タカギノカミが手に取ってみると、
血の付いたその矢はワカヒコに賜ったものではないですか。「もしアメノワカヒコが
命令を違わずに、あの暴君を射た矢であるならばワカヒコに当るな。だがもし裏切っ
たというのなら、ワカヒコよこの矢に当って死ぬがいい。」タカギノカミはそう言っ
て矢を投げ返すと、矢は朝まだ眠っているワカヒコの胸を衝き、ワカヒコは死んでし
まいます。

ワカヒコの妻となったシタテルヒメの悲しむまいことか。その泣く声が風に乗って天
に届き、ワカヒコの死はその父アマツクニタマノカミの知るところとなり、アマツク
ニタマノカミと、そして高天の原に残してきた妻子とが降りてくることとなります。
そうです。アメノワカヒコは、シタテルヒメと結婚したものの、実は既に正妻がいて
子供までなしていたのです。

この二人が来てしまった喪屋は大変なことになってしまいます。シタテルヒメも、高
天の原から来た正妻も、互いにワカヒコに騙されていたわけですし、父親のアマツク
ニタマノカミはわが子が裏切り者として死んだわけですから。そして、更に悲惨なこ
とには――。この喪屋にシタテルヒメの兄、アジスキタカヒコネノミコトが弔問に来
ますが、それを父親も正妻もワカヒコと錯覚してしまいます。「ああ、我が子は死ん
でいなかった。」「ああ、あなた、生きていたのね。」こう叫んでアジスキタカヒコ
ネノミコトの手足に取りすがって泣くのですが、アジスキノミコトはかんかんに怒っ
てしまいます。「親しい友だからこそ、こうして見舞いに参ったのだが、その私を死
んだ者と間違えるとは何事!」そして佩いていた剣で喪屋を切り伏せて、足で蹴飛ば
して、自らもそのまま飛んで行ってしまいました。もう、さんざんなお葬式です。

ところでこの、剣で喪屋を切り伏せ、自らも飛んで行ったというアジスキノミコト、
実は雷の神様なのです。その雷の霊力を讃える歌を妹のタギリヒメが歌ったとして
『古事記』に載っています。

天(あめ)なるや 弟棚機(おとたなばた)の
項(うな)がせる 玉の御統(みすまる)
御統に 穴玉はや
み谷 二(ふた)渡らす
阿治志貴高(あじしきたか) 日子根(ひこね)の神ぞ

<天にいる乙女 棚機姫(たなばたひめ)の
 首に掛かっている玉の首飾り
 ああ その輝く首飾りの玉のように
 谷を2つも越えて照り輝く
 アジスキタカヒコネの神様であることよ>
 
雷を表現するのに、何とも美しい表現ですね。

『古事記』でアジスキが出てくるのはここだけです。が、先に述べましたように、
『出雲国風土記』ではあちこちに現われて、どうも民衆の信仰を集めた神様のようで
す。(逆に、不思議と、同じオオナムチの御子で、『古事記』で重要な役割を果たす
事代主(コトシロヌシ)は全く出て来ません。)アジスキは生まれた時から泣いてば
かりで大きくなっても言葉を全く話さなかったと言い伝えられています。それがもの
を話すようになったのは、梯子を使ってでないと昇り降りできないような高い床の建
物に、神様を据えるようにして育ててからであったと言います。生まれてから泣いて
ばかりというのはスサノオにも通じますが、それは言葉を越えて神霊と交流する存在
であったということなのでしょうか。それは「言葉を自由に使うもの」を意味する事
代主とは対称的な存在なのでしょうか。

さて、高天の原では最後に雷の神、タケミカズチノオノカミが遣わされます。この神
様がオオナムチに「あなたが治める日本は、アマテラスオオミカミが我が御子の治め
るべき国であると仰せになられているが、あなたのお考えはいかに?」と問うと、
「いや、この件については私はもう隠居しているので何とも言うことはできません。
息子の事代主に聞いて下さい」と言って逃げるのです。タケミカズチノオが事代主を
掴まえると、事代主は「恐れ多いことで、この国は天の神様の御子様のものです」と
言うのです。が、オオナムチ、今度は「いや、もう一人タケミナカタノカミという息
子もいるので」と逃げます。タケミカズチノオは科野(しなの)の国までこの神を追
い求め、そして服従させます。こうして遂に言い逃れできなくなったオオナムチは壮
麗な宮殿を造ってもらうことを条件に出雲の国を譲ることになるのです。

この間、どれだけの月日が流れたのでしょう。アメノオシホミミノミコトには御子が
生まれています。そしてその御子、ヒコホノニニギノミコトが高天の原から「天の八
重(やへ)たな雲を押し分けて、稜威(いつ)の道別(ちわ)き道別(ちわ)きて」
この地上に降りて来ます。世に言う天孫降臨がここに成ったのです。
次回はそのニニギノミコトの妃、コノハナノサクヤヒメのお話です。お楽しみに。

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「恋歌」番外編は隔週木曜日に発行します。
次回をどうぞお楽しみに。。。。


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2003.10.30 「恋歌」番外編第6回発行号


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