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            * * * 第61回 * * *
               2004.2.26
  
こんにちは。いかがお過ごしですか。
メールマガジン「恋歌」創刊2周年特集、
前回に引き続き小野小町の歌をお届けします。

前回ご紹介した歌には
小野小町の恋に悩める姿が描かれていたように思います。
そしてそれは時代を越えて私たちの日頃の経験にも通じるものがある
普遍的なものと感じました。
彼女の歌が歌い継がれてきた理由がわかるようです。

さて、「恋多き女」と言われた美女のこと、
やはり言い寄って来る男は多かったようです。
そんな男たちに対してとぼけてみせたり茶化してみたり
或いは修業中のお坊さんを誘惑してからかってみたり
前回の嘆きの小町とは違った
茶目っ気たっぷりの小野小町をご紹介します。

どうぞご賞味ください。。。


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小野小町特集(2)〜小町、男をあしらう

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●みるめなき わが身をうらと 知らねばや
 かれなであまの 足たゆくくる

<みるめ(海藻)のない浦のように
 見る目のない私と知らないのでしょうか
 遠のくこともなく海人のような男たちが
 足がたるくなるまで通ってくることです>
 
          (『古今和歌集』巻第十三 恋三623)

――いえ、見る目ないと思っているのは小町さんだけでしょう。男はつれなくされて
も飽きもせず通うものです。(頼)


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●あまのすむ 里のしるべに あらなくに
 うらみんとのみ 人のいふらん

<海人の住む田舎の観光案内嬢ではありませんことよ
 「うらみん(=浦見ん=恨みん)、うらみん」とばかり
 人は私に言うのだけれど> 

          (『古今和歌集』巻第十三 恋三656)

――一体何人の男が振られたのでしょう。振られた男たちは「恨みますぞ」の意で
「恨みん」といったのでしょうが、その音をとって「浦を見たい(=浦見ん)」とは
おかしなことを言いますね、ととぼけてるのですね。(頼)


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●わびぬれば 身をうき草の 根を絶えて
 誘(さそ)ふ水あらば いなんとぞ思ふ

<もう心も塞いで この身を憂きものと思い
 根から離れてしまった浮き草のように
 世間とはおつきあいしなくなりました
 それでも誘う水がありましたら 行ってもいいかとは思いますが> 

          (『古今和歌集』巻第十八 雑下938)

――これは、文屋康秀(ぶんやのやすひで)が三河の国の三等官に任命されて任地に
赴いた時に、「田舎見物にいらっしゃることはできませんか」と小野小町に書いて送っ
たものの返事。「誘われたら行きます」ということは、小町さん、康秀の手紙は誘い
とはとらなかったということ。「いらっしゃれませんか」は弱いですね。誘うならもっ
とちゃんと誘ってよ、ということでしょうか。そう言えば今時の若い男の誘い文句に
「〜しませんか」が増えてるとか。男、もっと頑張れ!(頼)


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●今はとて わが身時雨(しぐれ)に ふりぬれば
 言の葉さへに 移(うつ)ろひにけり

<今となっては あなたに忘れられたこの身も古くなってしまい
 折からの時雨のように涙が降るようになってしまいました
 その時雨に打たれて萎れていく木の葉のように
 あなたの言葉も今は色褪せてしまいましたよ>


◎人を思ふ 心この葉に あらばこそ
 風のまにまに ちりもみだれめ
          ―小野貞樹

<あなたを思う心が木の葉のようでないからこそ
 木の葉のように風に任せて飛んでいったり散ったりはしないのです>

          『古今和歌集』巻第十五 恋五782・783)

――貞樹さん、今ひとつ説得力に欠けます。昔から何とかいいことを言おうとする男
の意識は変わらないものですね。いいこと言ったつもりでも女の側からすれば男の言
の葉は木の葉と同じ位軽く虚しく響くのかもしれません。(頼)


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◎つゝめども 袖にたまらぬ 白玉は
 人を見ぬ目の なみだなりけり
          ―安倍清行朝臣

<包んでみても私の玉は袖に留まらないと思ったら
 その玉はなんとあなたに会えずに流す涙でしたよ>


●おろかなる 涙ぞ袖に 玉はなす
 我はせきへず たぎつ瀬なれば

<袖に玉をつくるような涙なんてハンパですこと
 私なんかあの話に感動して もう滝のような涙を流しましたよ> 

          (『古今和歌集』巻第十二 恋二556・557)

――このおとぼけぶりが僕は好きだったりします。ちょっと説明が要りますね。これ
は一緒に出席した法事で、真静法師という人の法話を聞いての歌なのです。どうもそ
の中で袖の中に高価な宝珠が入っているのに気づかない、という『法華経』の話があっ
たようなのです。その話にかこつけて小町さんに恋文を送った清行さんでしたが――。
見事小町さんにかわされてしまいましたね。(頼)


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●岩(いは)の上(うへ)に 旅寝(ね)をすれば いと寒(さむ)し
 苔の衣を 我に貸(か)さなん

<岩の上で旅寝をするのはとても寒いことです
 苔の衣を私に貸して下さらないかしら> 


◎世をそむく 苔の衣は ただ一重(ひとへ)
 貸(か)さねば疎(うと)し いざ二人(ふたり)寝(ね)ん
          ―僧正遍昭

<俗世を離れて暮らす私の苔の衣はたった一枚のみです
 かといって貸さなければあまりにつれないし
 そう いっそ二人一緒に寝ることにしましょう>

          (『後撰和歌集』巻第十七 雑三1195・1196)

――これは石上寺(いそかみでら)というお寺に詣でて、日が暮れたのでそのままそ
こに泊まることになった時の歌。そのお寺に僧正遍昭が修行中と聞いて、どんな返事
か来るか試してみようとからかってみたもの。が、敵もさるもの、お坊さんのくせに
色っぽい返事を返してきました。これに小町さんがどう反応したか、そしてそのあと
二人がどうなったかは、勿論わかりません。尚、「岩」が出てくるのは「石上寺」の
縁、そのまた縁で「苔」が出てくるのです。(頼)


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「恋歌」第61回号、如何でしたでしょうか。

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2004.2.26 「恋歌」第61回発行号


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