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            * * * 第60回 * * *
               2004.2.19
  
こんにちは。いかがお過ごしですか。
メールマガジン「恋歌」創刊2周年特集、
今回は小野小町の歌をお届けします。

世界三大美人に数えられる小野小町ですが、
生没年はもちろんのこと、出自もいろんな説があり
詳しいこと、正確なことはわかっていないのです。

ただ、その歌のやりとりから
安倍清行(きよつら)、小野貞樹(さだき)、文屋康秀(ぶんやのやすひで)
そして僧正遍昭といった面々との交流があったことがわかっています。
『伊勢物語』では同時代人であった天下のプレイボーイ
在原業平とも交流があったかのように表現されていますが、
これは当代の美男美女をカップルに仕立てたい
作家の虚構かもしれませんね。

いずれにせよ、彼女がどういう人物で
どういう生き方を、恋をした人なのか、
それは『古今和歌集』と『後撰和歌集』に採られた
わずか22首の歌が全てを語ってくれています。

私たち日本人の心にイメージを掻き立て
様々な伝説を生み出してきたその22首の中から
今回と次回の2回にわたってお届けします。
構成とコメントは以前「好きな愛の歌」の時に
いきなり『百人一首』を出してきた出雲頼通です。

どうぞご賞味ください。。。

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小野小町特集(1)〜小町、恋に苦しむ

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●思ひつゝ ぬればや人の 見えつらん
 夢と知りせばさめざらましを

<あなたのことを思いながら寝たからでしょうか あなたが現れたのは
 それが夢だと知っていたなら 覚めたりはしなかったものを> 

          (『古今和歌集』巻第十二 恋二552)

――そういうこと、僕もありますね。思っている人との幸せな夢だと、目が覚めて側
にその人がいないことがわかった時は、ほんとにがっかりしますよね。(頼)


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●うたゝねに 恋しき人を 見てしより
 ゆめてふ物は たのみそめてき

<うたたねをして恋しい人に会ってから
 夢というものを頼りにし始めました>
 
          (『古今和歌集』巻第十二 恋二553)

――これは悲しいですね。現実にはなかなか会えないので、もう夢に頼るしかなくなっ
たという……。(頼)


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●うつゝには さもこそあらめ
 夢にさへ 人めをもると
 見るがわびしさ

<現実にはそういうこともあるでしょうけど
 夢でさえ人目を気にして来て頂けないとは
 ほんとにがっかりですわ> 

          (『古今和歌集』巻第十三 恋三656)

――小町の時代は、夢に現れるということはその人が自分のことを思ってくれている
からだ、と考えられていたわけです。その夢にさえ現れてくれない男を恨んでいるの
ですね。(頼)


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●限りなき 思ひのまゝに よるもこむ
 夢路(ぢ)をさへに 人はとがめじ

<限りないこの思いのままに夜も行きましょう
 夢路に通うことまで人も咎めることはないでしょうから> 

          (『古今和歌集』巻第十三 恋三657)

――前半、第3句まではワクワクするような表現ですね。しかしその「夜も行きましょ
う」というのは現実に、ではなく、夢路なのですね。現実には人の目があるので思いっ
きり愛しい人の所に通うということができない不自由さ、その裏返しとしてせめて夢
の中では「限りなき思ひのまゝに」なのです。(頼)


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●夢路には 足もやすめず 通へども
 うつゝに一目(ひとめ) 見しごとはあらず

<夢路では足も休めずせっせとあなたのもとに通ってるけれど
 やっぱり現実に一目でも会うほどではありませんね> 

          (『古今和歌集』巻第十三 恋三658)

――これはほんとそうですね。今はメールとか発達してるから、なかなか会えない状
況でも頻繁にやりとりできて、お互い気持ちが通じ合っているとしても、やっぱり実
際に会うのは全然違いますよね。(頼)


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'●秋の夜も 名のみなりけり
 あふといへば 事ぞともなく
 明けぬるものを

<秋の夜は長いなんて名前ばっかりですね
 あなたと会うとなったらこうしてあっと言う間に
 明けてしまうんですもの> 

          (『古今和歌集』巻第十三 恋三635)

――好きな人と過ごす時間というのは、ほんとに過ぎるのが早いんですよね。(頼)


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●人にあはん つきのなきには
 思ひおきて 胸はしり火に
 心やけをり

<愛しい人に会う機会もなく 月もない暗い夜には
 その人への思いに目が覚め 胸は走り
 走り火のようにパチパチと焼ける心で過ごすのです> 

          (『古今和歌集』巻第十九 雑躰1030)

――「思ひおきて…心やけをり」! 何という激しい表現なんでしょうね。いえ、表
現というより、これが恋した時の小町さんの状態そのものなんでしょうね。(頼)


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●心から うきたる舟に 乗(の)りそめて
 一日(ひとひ)も浪に 濡(ぬ)れぬ日ぞなき

<自分から望んで浮いた舟 物憂くさせる恋という舟に乗ってしまって
 一日として波のような涙に濡れない日はありません> 

          (『後撰和歌集』巻第十一 恋三779)

――そう、恋というのは、誰からも頼まれないのにわざわざ苦しんだり悩んだりする
道を選ぶようなものですね。(頼)


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●あまの住(す)む 浦漕(こ)ぐ舟の かぢをなみ
 世を海(うみ)わたる 我ぞ悲(かなし)き

<海人たちが住む浦 その浦を漕ぐ舟の櫂を失くしてしまったので
 何処へ行くとも知れずこの世という海を憂いながら渡っていく
 そんな自分が悲しい>

          (『後撰和歌集』巻第十五 雑一1090)

――「浦漕ぐ舟」というのはきっと小さな舟でしょう。その小舟が櫂を失ったまま海
を渡っていくという、何とも不安で壮絶なイメージですね。「海」には「倦(う)み」
が掛けられてます。(頼)


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●花の色は うつりにけりな いたずらに
 我が身世にふる ながめせしまに

<桜の花の色は虚しくもすっかり褪せてしまったことよ
 長雨の中、私が物思いをしている間に
 そうして男女のことにかかずらっている間に>
 
          (『古今和歌集』巻第二 春下113)

――「ながめる」という言葉は、「長雨」から来ているのだそうです。長雨の時は外
に出られないのでぼんやりするしかない、そこでぼんやり物思いすることを「ながめ
る」と言ったんだそうです。その長雨に打たれて萎れていく桜と、いろんな男とのこ
とで物思いに耽っているうちに年を経た自分とが重なっていくのですね。(頼)


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●色みえで うつろふものは
 世の中の 人の心の
 花にぞありける

<花のようにはっきりと色に表れずに変わっていくもの
 それは世の中の
 人の心の花であることよ> 

          (『古今和歌集』巻第十五 恋五797)

――「人の心」とは一般的な「人」なのでしょうか。「世の中」とありますから、や
はり男の自分に対する気持ちを言っているように思います。桜の花の萎れるのは目に
見えてわかるけれど、目に見えずに気づかないうちに相手の男が心変わりしている、
その虚しさを歌ったものなのでしょう。(頼)


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「恋歌」第60回号、如何でしたでしょうか。

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2004.2.19 「恋歌」第60回発行号


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