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            * * * 第59回 * * *
               2004.2.12

こんにちは。いかがお過ごしですか。
メールマガジン「恋歌」2周年特集の2回目です。

今回は前回に引き続き額田王の歌をお届けします。
前回は恋の歌を中心にお送りしましたが、
もともと額田王は天皇に代ってその心を歌で表現し、
人々にその意を伝えるという役の存在であったようです。

従って、『万葉集』に残された彼女の歌には
私たちが彼女に抱くロマンチックなイメージとは違った
政治的な場面で歌われたものがほとんどと言っていい位です。
前回ご紹介した恋の歌も、その多くは公式行事の場で歌われたもののようです。

言霊(ことだま)ということを重んじるわが国にあって、
額田王の歌は天の意を、そして人の心を真実の言葉で表現し、
そしてその言葉が多くの人々の心を動かし願いを現実にし、悲しみを癒し、
激動の時代を生き抜いていく力を与えていったのでしょう。

歴史の瞬間に居合わせるような
生き生きとした言の葉の数々
どうぞご賞味ください。。。

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額田王特集(2)〜天の声、人の声

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●熟田津(にきたつ)に 船乗りせむと
 月待てば 潮(しお)もかなひぬ
 今は漕ぎ出(い)でな

<熟田津で船出の機会を待っていたが
 月も出 潮の流れもちょうどよい時となった
 さあ 今こそ船を漕ぎ出そう>

          (『万葉集』巻第一 雑歌8)

――唐と新羅の連合軍によって滅ぼされた百済から救援の要請を受けて斉明天皇が自
ら船団を率いて出陣した時の歌です。船団はなぜか途中、四国の熟田津で2ヶ月程停
泊していますが、その出発の際に歌われたものということです。海を越えて戦いに赴
こうとする兵士たちが、「今こそ天の時が来た」と歌うこの歌を聞いて奮い立つ光景
を目の当りにするようです。(黒)


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●味酒(うまさけ) 三輪(みわ)の山
 あをによし 奈良の山の
 山の際(ま)に い隠(かく)るまで
 道の隈(くま) い積(つも)るまでに
 つばらにも 見つつ行かむを
 しばしばも 見放(みさ)けむ山を
 情(こころ)なく 雲の 隠(かく)さふべしや

<味酒の三輪山が
 青土も美しい奈良の山の 山の端に隠れるまで
 幾重にも道を折り重ねて行くまで
 余すところなくよく見て行きたいのに
 何度も何度も振り返って見たい山なのに
 その山を非情にも 雲が隠してよいものだろうか>

   反歌

●三輪山を しかも隠すか
雲だにも 情(こころ)あらなむ
 隠さふべしや

<三輪山をこんな風に隠してしまうなんて
 せめて雲くらいは心あってほしいものを
 こうして隠すべきではあるまいに>

          (『万葉集』巻第一 雑歌17・18)

――天智天皇は667年多くの人々の反対を押し切って、都を大和から近江へと遷し
ます。この歌はその遷都の折に額田王が歌ったものと言われています。大和を離れた
くはない、しかし天皇の命には従わざるを得ない、せめて一目でも多く大和の風景を
目にしていたい、そんな人々の心を映しているようです。(黒)


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●かからむの 懐(おもひ)知りせば
 大御船(おほみふね) 泊(は)てし泊(とま)りに
 標(しめ)結(ゆ)はましを

<こんな風に去っておしまいになるというお心を知っていたなら
 陛下の御船が泊まった港に
 出入りを止める印の縄をしっかりと結んでおきましたものを>

          (『万葉集』巻第二 挽歌151)

――天智天皇が崩御された大葬の時の歌です。(黒)


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●やすみしし わご大君の
 かしこきや 御陵(みはか)仕(つか)ふる
 山科(やましな)の 鏡の山に
 夜(よる)はも 夜(よ)のことごと
 昼はも 日のことごと
 哭(ね)のみを 泣きつつ在(あ)りてや
 百磯城(ももしき)の 大宮人(びと)は
 去(ゆ)き別れなむ

<この国をあまねく知ろしめされるわが大君の
 ああ 畏れ多くも御陵の前で冥福を祈る
 山科の鏡山で
 夜は夜通し
 昼は一日中
 泣いて泣いて涙をながし続けた
 ももしきの大宮人たちも
 今はここを立ち去り 別れ別れになっていく>

          (『万葉集』巻第二 挽歌155)

――これも天智天皇崩御の折の埋葬の時の歌です。多くの人が夜となく昼となく悲し
みに涙する壮絶な光景、そして儀式が終った後にその人々が立ち去って行った後に残
る虚しさ、その対比が時の流れの中で表現されていて、すごい!(黒)


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「恋歌」第59回号、如何でしたでしょうか。
次回からは「小野小町特集」を2回にわたってお届けします。
どうぞお楽しみに。。。

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2004.2.12 「恋歌」第59回発行号


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