:.。.:*:・' :.。.:*:・'゜メールマガジン「恋歌」:.。.:*:・' :.。.:*:・'゜
* * * 第58回 * * *
2004.2.5
こんにちは。いかがお過ごしですか。
メールマガジン「恋歌」を創刊してはや2年が経ちました。
遠い昔、私たち日本人は心に感じた様々なこと、
喜びや幸せは勿論のこと
不安や悲しみ、不満や怒り、恨みをも
歌として表現し、その歌が人の心に伝わることで
受け入れがたい現実をよりよいものへと変えてきました。
それだけにすぐれた歌は多くの人々の共感を呼び
幾世代にもわたり歌いつがれてきたのです。
そうしてすぐれた歌を残した歌人たちに
その表現の魅力を学びたいと
日本の恋歌の原点である額田王と小野小町の歌を
4週連続で特集致します。
実はこの2人、様々な言い伝えはあるものの
どういう人物であったのか
詳しいことはよくわかっていないのです。
この2人について確かなのはその残した歌だけなのです。
言ってみれば、その歌が2人の伝説を作ったのです。
それは一体どんな歌、どんな表現だったのでしょう。
今回は額田王の歌から特に恋の歌を中心にお届けします。
構成とコメントは、『万葉集』と言えばこの人、タンゴ黒猫です。
どうぞご賞味ください。。。
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額田王特集(1)〜わが恋ひをれば
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●秋の野の
み草刈り葺(ふ)き 宿(やど)れりし
宇治の京(みやこ)の 仮廬(かりほ)し思ほゆ
<秋の野のすすきを刈り取って屋根に葺いて泊まった
宇治の都で仮の宿りをして一緒に過ごした
あの夜のことが思い出されてなりません>
(『万葉集』巻第一 雑歌7)
――これは額田王のデビュー作かもしれない、最も初期の10代の頃の作。亡き夫と過
ごした時を懐かしむ皇極天皇の気持ちを天皇に代って美しく表現してます。(黒)
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●静まりし 浦波騒く
わが背子(せこ)が い立たせりけむ
厳橿(いつかし)が本(もと)
<静かだった浦で突然波が騒ぎ出した――まるで私の心のように
気がついたら私がいたのは 愛しいあの人が立っていた
あの神聖な橿の木の下>
(『万葉集』巻第一 雑歌9)
――この歌の初句、二句は未だにどう読んでいいのかわからないと言われているもの
ですが、これが斉明天皇が一族引き連れて紀伊の国の白浜温泉に行った時のものとい
うことを前提にじーっと並んだ漢字を見ていると、この訓(よ)みが一番いいかな、
と。温泉旅行の夜って、やっぱりワクワク期待するものがあるじゃないですか。(黒)
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●冬ごもり 春さり来(く)れば
鳴かざりし 鳥も来鳴(きな)きぬ
咲(さ)かざりし 花も咲けれど
山を茂(も)み 入りても取らず
草深み 取りても見ず
秋山の 木(こ)の葉を見ては
黄葉(もみち)をば 取りてそしのふ
青きをば 置きてそ歎(なげ)く
そこし恨(うら)めし 秋山われは
<冬が終り 春が来ると
それまで鳴かなかった鳥も来ては鳴き
咲かなかった花も咲くのだけれど
山は茂り合っていて 入って取ることもできず
草も深く 花を手折って見ることもできない
秋の山の木の葉を見る時は
紅葉した葉っぱを手にとって愛でることができる
青い葉っぱがあった時にはその辺に打ち遣って嘆いたりする
それは恨めしいことではあるのだけれど
そうやって手にとって一喜一憂できる秋山こそ私は好きです>
(『万葉集』巻第一 雑歌16)
――天智天皇が藤原鎌足に命じて、花が美しい春の山と紅葉の美しい秋の山とどちら
が素晴らしいかをテーマにした歌会を催した時の歌。春の山の素晴らしさ、秋の山の
素晴らしさをそれぞれ歌い、最後まで結果がわからないところがさすが。(黒)
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●あかねさす
紫野(むらさきの)行き 標野(しめの)行き
野守(のもり)は見ずや 君が袖振る
<茜色を帯びたムラサキソウの野原を行ったり
御領地の野原を行ったりと派手に動き回るあなた
野の番人が気づきはしないでしょうか あなたが私に袖を振っているのを>
(『万葉集』巻第一 雑歌20)
――『万葉集』の中で女性に圧倒的人気を誇るのがこの歌だそうです。色彩、言葉の
リズムが生み出す躍動感、そしてハラハラしながらも相手のことを愛しく思う気持ち、
これら全てが相俟ってさわやかなイメージを掻き立てる歌ですね。(黒)
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●君待つと わが恋ひをれば
わが屋戸(やど)の すだれ動かし
秋の風吹く
<あなたに早く訪れてほしいと 恋焦がれて待っていると
あなたがいらしたかのように わが家の簾をすーっと動かして
秋の風が吹くことです>
(『万葉集』巻第四 相聞488)
――風は男の象徴、風が吹くのは想っている男が訪れるという前触れだったそうです。
だからこうして恋焦がれて待っている時に風が吹くとそれだけで嬉しいという、これ
もさわやかに恋心を歌った歌ですね。僕の額田王のベストです。(黒)
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●み吉野の 玉松が枝(え)は 愛(は)しきかも
君が御言(みこと)を 持ちて通(かよ)はく
<吉野から送って頂いたりっぱな松の枝のいとしいこと
あなたのお言葉がこもっていて 心に伝わってくることです>
(『万葉集』巻第二 相聞113)
――額田王の最晩年の歌。吉野への行幸に同行した弓削皇子は額田王へ歌を送ってい
ますが、その同じ時なのでしょうか、弓削皇子が額田王の長寿を願って松の枝を贈っ
たようなのです。心のこもった贈り物に対する感謝の気持ちが、やはり美しい言葉で
綴られてますね。(黒)
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2004.2.5 「恋歌」第58回発行号
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