:.。.:*:・' :.。.:*:・'゜メールマガジン「恋歌」:.。.:*:・' :.。.:*:・'゜

          * * *  第2回 * * *


こんにちは。
メールマガジン「恋歌」をお読み下さりありがとうございます。

「恋歌」は、恋に生き、歌に情熱を託した日本人の
溢れんばかりの情緒をいま、現代に蘇らせたい気持ちから、
数人の仲間で始めた企画です。

タイトルは「恋歌」ですが、恋だけに限らず、
女という命を生きることもまた、
歌にしていきたいと考えています。
みなさまとご一緒に、日本人としての熱く美しい魂を
取り戻していけましたら大変うれしく思います。

この度、新たにお越し下さった皆様をはじめ、
創刊号よりお読みいただいている皆様にも、
改めてご挨拶させていただきます。
これから、どうぞよろしくお願い致します。

さて、
第2回発行号は、
歌人・武蔵野式部のご紹介とともに、
武蔵野式部特集をお送りいたします。
ちょっと不思議なショートストーリーを、
どうぞ、ご賞味ください、、、、。


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歌人・武蔵野式部紹介.....[寸評]

武蔵野式部特集   [初恋]
           [母]
           [女]

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歌人・武蔵野式部紹介.....[寸評]
*恋歌の仲間から見た武蔵野式部は、、、、

静かな柔らかさの中にも熱き女性の血潮、命の芯を表す
               /相模野小町
  女として幸せな経験を重ねてきた歌人。見習うべし 
               /松ノ木大宮八幡娘
  体優しき、母のような愛を持つ女性 
               /天の羽衣   

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-武蔵野式部特集-


 [初恋]


18の時にであった。
船乗りを目指していたという彼は
いつもカウンターの向こうで遠くを見ていた。

アルバイト先で初めて付き合う大学生。
ずいぶんと大人に見えた。

時々かわす言葉。
ときめきがあった。

鋭い目をしているのに、
笑うと笑顔の優しい人。
この人に抱かれたいと願った。

ある日のアルバイトの帰り、
思い切ってカウンターのドアを開け
「終るまで待ってる」と告げると
「そうか、逃げないでまってろよ」と笑って答えた。

仕事を終え、彼がやってきた。
胸が高鳴り不安で押しつぶれそうな声で
「今日は帰らない」と告げた。

彼は黙って私の頭を抱えこんだ。
彼のしぐさは、いつも私の意表をつく。
心がふっと和む。

静かで、透明な夜。
彼の後をついて行く。
私が少し離れると肩を引き寄せてくれた。
彼の下宿にたどり着く。
彼の匂いにみちた部屋。
男の部屋だった。

話しがとぎれて、沈黙がつづく。
照れ隠しに「寝るぞ」と声をかけ
電気を消し、私を布団に引き寄せた。

全てを委ねるしかないと身を任せる。
かれはとても優しくゆっくりと愛してくれた。

「はじめて」って聴かれて、
黙ってうなずいた私。
かなりの痛みを伴ったけれど、
自然に自然に導かれて、
幸福な初めての夜を過ごした。

激しい波がおさまり
ゆらゆらとゆらぎながら、
私は恥ずかしくて、彼の胸に顔をうずめる。

彼は髪をずっとなでてくれた。
そのここちよさに痛みが和らいでゆく。

ふと、「ごめんね」とつぶやいた。
「なんであやまるの?」
とタバコを吸いながら彼が問ふ。
「気持ちよくできたのかなあ」

彼を満足させてあげられたかどうか不安だった。

「かわったやつだな」
彼は笑って強く抱きしめてくれた。
「こうしてると、あったかいな、、。」
私こそあったかくって、
彼の腕の中は最高に心地よい居場所だと思った。


彼はいつも私のことを
「なんだか消えてしまいそうな子だね」と
強く抱きしめてくれた。

4年の日々。
女として育ててもらった。
ずっと好きでいた。
何人か、他の女ともつきあっていたけれど、
不思議と気にならなかった。

彼の面影は沢山の思い出とともに
私の脳裏に焼き付いている。
悲しい別れだったはずなのに、
なんだか胸が温かくなってくる。

初恋の、懐かしい男(ひと)。


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  [母]


「今日も泊まってくる。友達の家。」
渋谷から家に電話した時
母にはもう、解っていた。

秘密をもった娘。
私の嘘は見え透いている。

「今日はもういけません。早く帰ってらっしゃい。」
久しぶりの母の恐ろしい声。
普段うるさいことを言う人ではなかった。
嘘はばれてしまったのだ。

彼との逢瀬に有頂天になっていた私、
なんということ!
泣く泣く彼と別れ家に帰る。

天国から地獄の気分なのに
夜空の星は奇麗だった。
静まり返った家に一部屋だけ明かりが灯いている。
もちろん母の部屋。

母は、正座をして待っていた。
「誰かと付き合ってるの」と静かに聞いた。
かたくなになっている私は
「そんなに私の事を信頼してないの」
とむきになって言ったら、
「子供が心配じゃない親などどこの国にもいないものよ」と母は言う。

私は無言で座っていた。
しばらくの沈黙の後、母はあきらめたように
しかし凛として
「後悔しないだけの覚悟をなさい。」
と言った。

おもわぬ展開に驚きながらも必死で私は言った。
「彼の事好きな気持ちは本当だから、どんなことがあっても後悔なんかしない」
「だったら好きにしなさい。もういいから。」

私は一人自分の部屋にもどった。
初めて母を見事だと思った。
生き方をおそわった。

それ以来私は自由に彼の部屋を行き来した。
母は、二度と彼との事に口を挟まなかった。

あれから、何人かの人と恋をし
いくつかの修羅場をくぐりぬけてきたけれど、
母との約束は守ってきた。

時には死んでしまおうかと思うこともあったが、
母との約束が、いつも私を支えてくれていた。

早くに父を亡くし一人で私たちを育ててくれた母。
私が21のときになくなった母。
短い月日だったが、
女として語り合えたことが何よりの形見。


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[女]

各駅停車しか止まらない
私鉄沿線の小さな駅。

いつもの待ち合わせの場所に立つ。
新しく買った淡いピンク色のタンクトップは
やけに胸があいていて少し大人の気分にさせてくれる。

彼を待つ間、壁のポスターに目が行く。
何げなく読み始めていたら、
後ろにふっと彼の気配がした。

振り返えろうとする私に
彼は一部のすきもなくぴたっと寄り添い
後ろから抱きしめた。
「奇麗だね」
彼が小さな声でささやいた。

一瞬で私をまいらせる
彼は天性の才能をもっている。

のどかな日曜日、カフェでお茶をのみながら、
静かな、甘いときを過ごす。
目が合うと、恥ずかしさに満ちて、
笑顔でごまかしている私。

今日は部屋で過ごそうと
挑むように彼が言った。

膨らむ期待感でぎこちなくなり、うなずく私。
まだ日差しの暑い、夏の日の午後。
彼の下宿に忍び込む。
彼の部屋はあたかも秘密の隠れ家のよう。

抱き合うふたり。
まだぎこちない睦言。
懸命に愛を表そうとする。
互いを求め合い、飽きずに繰り返す、
幸せなとき。

ときが止まってしまったような瞬間、
初めてからだの奥から、深い悦びが湧き上がってきた。
唐突に起こった甘く鋭い感覚は、全身をかけめぐり
心臓は破裂しそうなくらいに激しく波打った。

自然に歓喜の声がほとばしり、
恥ずかしくて、どうにもならなくて、彼にしがみつく。

心臓の鼓動が耳のうちで聞こえてくる。
鼓動と同じ速さで悦びがめぐる。
なんだか自分がいなくなってしまう。

大波のように襲ってきた初めての悦びに
体の中の新しい感覚が開かれ、
えもいわれぬ開放感にみたされた。

汗をかわかす風を楽しみながら
無言でお互いをいたわる。
けだるさとさわやかさが交互する。
このまま、ここに、永遠に、、、。

「よかったか?」
まるで遠くから聞こえてきた彼の声。
笑顔でうなずく私をもう一度その胸にだいてくれた
いとしい人。

この人の子供を孕みたいという本能のごとき叫びが
自分の内から聞こえてきた。

そのときから私は女となった。


- 武蔵野式部 -


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「恋歌」第2回号、如何でしたでしょうか。
次号は、相模野小町特集をお送りいたします。
どうぞお楽しみに。。。。

わたし達の恋歌が、あなたの恋の魂に触れたら、、、
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もちろん、ご意見ご感想なども、たくさんお聞かせくださいね。

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2002.2.4 「恋歌」第2回発行号


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